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執筆者の写真西野 智也

大人の為のいまさら聞けないピアノの『いろは』第3回【ペダル(右足編)】

更新日:2021年8月24日

ピアノを打楽器から歌う楽器へと変える機構であり。最も重要なテクニック・ペダリング。

第3回では『ペダル(右足)』に関するいまさら聞けないを解説していこう。


1.ペダルの仕組みについて

ペダリング

まず結論から言います。


ペダルの技術が未熟な状態ではピアノという楽器を音楽的に演奏することは不可能です。


『ピアノは指で演奏しペダルで歌わせます!』これこそが真理です。ペダリングは指と同等かそれ以上に重要な技術なのにもかかわらず世の中の大半のピアノの先生は正しいペダルの技術を教えていません!!

これは今まで多くの大人の生徒さんを見てきた自分の経験から基づく紛れもない事実です。


まずは意外と知らないペダルのことを学びましょう。

右のペダルは踏むことによってダンパー(止音装置)を動かし弦を開放する機構です。よってこの右ペダルのことを『ダンパーペダル』といいます。

ダンパーはペダルを踏むと一部の特殊なメーカーを除きグランドピアノでは下から上に、アップライトピアノでは前から後ろへと動きます。


右の動画はグランドピアノのダンパー

下の動画はアップライトのダンパー











ペダリング

上はグランドピアノのペダルを横から見た図です。まず大前提として


ピアノのダンパーペダルはonとoffしかないスイッチではありません!踏んだ量に比例した効果(響き)が得られます!


ペダルの踏み加減はすご~~~く大雑把に分けて5段階の領域があります。

※ちゃんと調整したピアノを前提に話をしています。


0.完全にOFF状態

足がペダルに触れてるだけ、音に当然変化はありません。


1.ペダルの遊び部分

ペダルを踏んではいるがダンパーが動かない領域、当然音に変化なし。


2.効き始め(ダンパー圧強)※ここからダンパーが動くのでペダルに重さを感じます

ダンパーが強めに効いている。一瞬で音は減衰するが完全には止音できない領域。


3.中間(ダンパー圧中)

ダンパーが微妙に効いている。細い高音弦は止音できるが、太い低音弦は音が残る領域。


4.半解放(ダンパー圧弱)

ダンパーが極僅かに効いている状態。弾いた音はしっかり鳴るが他の弦の共鳴を防ぐ


5.全開(ダンパー完全開放)

底まで踏んだのと同じ状態。弾かれていない全弦も共鳴するようになるので響きが増す。



この段階を巧みに使い分けることこそがペダリングの極意であり、音楽的な音色を作るための最も重要な技術と言えます。



2.使用しているピアノのペダル特性を知る

大人の為のピアノ講座

第一項で書いたようにペダルにはちゃんと調整されていれば遊びの部分があります。

上の写真は遊び部分とダンパーが効く深さを簡単に図式化したものです。

下の動画はペダルの遊びの部分だけを踏んでいます、ペダルが動いてるのにダンパーは動いていないのが分かると思います。また遊びの量は楽器の種類や調整によりかなり個体差があるので必ず使用するピアノで試してください。

まずは自宅のピアノの遊びの量とペダルが効き始めるポイントを知る必要があります。

方法は簡単です。


1.まずはペダルをシッカリ底まで踏んでキープする

2.適当な和音を両手でff で弾いて直ぐに指を放し

↓ ペダルだけで音を残す

3.ゆ~っくりとペダルを上げていく

この時、ペダルをゆっくり上げていくと鳴っている音がダンパーの効き具合に比例して急に減衰していきます、しっかり耳を澄まして完全に音が消えた位置で足をストップしてください。そこがあなたのピアノのペダルが効き始めるポイントです。そして音が完全に消えたポイントからまだ微妙にペダルが上げられると思います、そこがペダルの遊び部分です。

そして遊びが分かったら引き続き何回かやってダンパーの効き具合も確認しましょう。自分が使うピアノのペダルがどういう特性なのか、例えば、音が止まりにくいのか、深いところのコントロールがシビアなのか、浅いとこがあまり効かないのか等楽器の個体差や調整のされ方で大きく変わりますのでしっかり理解しないといけません。

慣れてくれば音を出さなくても遊び量と効き始めのポイントをペダルの重さから簡単に探れるようになります、これはコンクールや発表会等でリハーサル無しで慣れない楽器を弾く時に非常に重要になります。自分も見知らぬピアノを演奏する際はペダルのチェックは絶対欠かしません。

まずは自分が弾いているピアノのペダル特性をしっかり把握しましょう。この感覚が曖昧なままではペダル技術の習得は無理です。整備不良の楽器でも同様に正しい技術の習得は無理なのでしっかり調律師に調整してもらいましょう。



3.ペダルの踏み方


A.踏んでから弾く

使用方法的にはかなり限定的な踏み方です。

曲の冒頭やフェルマータの直後など印象的な場面で使うことが多くペダルも半開~全開で使う場合が多いです。曲の最中で使うことはまずありません。特徴としてはダンパーの稼働とハンマーの打弦がずれることで雑音が混じらずに解放弦に共鳴をもたらすことができ充実した響きを作り出すことができます。



B.同時に踏む

これも使い方としては限定的な踏み方になります。

ff やsfz 等、華麗な音が必要な時に使うことが多くこちらはほとんど全開で使う場面が多いです。音の性質としてはダンパーの解放音とハンマーの打弦音が混ざることにより音に独特の深みが出ます。逆に静かな作品やクリアーな音質や柔らかい音質が欲しい場面ではほとんど使うことはありません。



C.弾いてから踏む

これがペダルの踏み方の基本になります。この動画では分かりやすいように多めに間をあけてから踏んでいますが弾いてから踏むまでのタイミングは場面によって変わってきます。タイミングが短いのは当然として欲しい音色によってはもっと間をあける場合もあります。

これはハンマーが打弦後にダンパーを開放することにより、圧倒的に出した音が鮮明になります。しかもノンペダルと違い打弦後に解放された弦がわずかに共鳴するのでノンペダル時より音に色彩感や深みが出ます

曲の時代や使用楽器、会場の音響、必要な音色等様々な要因によって踏む深さもこちらは多様に変化していきます



ペダルを踏む技術とは踏む深さ踏むタイミングをコントロールして目的の音色を作り出す技術なのです。




4.ペダルの上げ方

踏んだペダルは当然上げなくては音を止められません。ペダルを上げるのにもテクニックがあるのです。


A.一気に上げる

上げ方としては非常に限定的なテクニックです。

一瞬にして音が無くなるので派手な曲の終結部や響きのあるスタッカートが欲しい時、等で使われます。基本的に遊びの上の完全OFFまで上げることが多いです。ここでは指も離しているので音が完全に止まっていますが指を残した状態でやると面白い音響効果を得ることができます。しかしダンパーがバネの力により勢いよく弦に下りるため衝突時に少なくない雑音が生じます



B.なめらかに上げる

ダンパーを上げる際の基本的な動作になります。

上げる速度は求める響きや曲の速さ、使用楽器の特性などによって常に変わります

ダンパーが弦に当たる速度を調節することで自然な止音を可能とします。そしてこの使用法では足は遊び部分までしか上げません。自然で音楽的なレガートの実現や水彩画の様な鮮やかな色彩感を出すのに必須のテクニックです。

ペダルの踏み方や踏むタイミングを気にするのに上げ方に凄く無頓着な人を見かけますが踏んで上げるまでがペダリングだということを忘れてはいけません。



C.音の高さによってダンパーの効きには時間差がある

これはBの応用テクニックになります。

ピアノの弦は低音の長く太い巻き線から高音部の細く短いピアノ線まで様々な太さや長さの弦が使われています。そして運動エネルギー(振動している弦)を止めるには動いているものの質量(弦の長さと太さ)が大きい程大きな力(ダンパーの圧力)が必要になります。

この物理法則を利用し適切な量のペダルを上げその高さをキープすることで低音弦は鳴らしたまま高音弦だけ音を止めるといったことができます。このテクニックは非常に難しいですが習得することができれば圧倒的な音色の幅と響きの深さを実現することが出来ます。



ペダルを上げる技術とはピアノ弾きにとって唯一弾き終わった音に干渉することのできる技術なのです。




5.ペダリングについてのまとめQ&A


Q1.いつ踏む?どう踏む?どこまで踏む?

これはペダリングにとって永遠の問題だと思います。実際これに関しては残念ながら正解はありません。その人がどういう風に演奏したいか、使っている楽器の特性、弾いている環境等、様々な要因によって答えが変わります。演奏者自身が耳で判断するしかありません。経験が浅い人は上手く踏めてるかどうか弾きながら自分の耳で客観的に判断するのは難しいと思います。しかし今はスマホ1つで簡単に録音できる時代ですので自身の演奏を客観的に聴くことは難しくありません積極的な活用をお勧めします。そしてあなたの中に『どういう風に弾きたいのか』という明確なビジョンが無いと永遠に答えにたどり着くことは出来ませんので理想を持って演奏することを大事にしてください。



Q2.作曲家毎に使用法は変わるのか?

これは当然変わります。バッハ、ベートーヴェン、ショパン、ドビュッシー、ラフマニノフと作曲家毎で求められる響きが変わります。バッハのフーガでは響きが混ざるようなペダリングはご法度ですがドビュッシーでは積極的に用いられます。ベートーヴェンではペダルは極力少なく浅く踏みますがショパンやラフマニノフで同じようにやったら音楽になりません。これらの判断は正しい知識と趣味の良い音楽的感性によってのみ実現できます。作曲家の生きた時代や使っていた楽器、様々な文献を読んで勉強をしたり、過去の大ピアニスト達の演奏をたくさん聴いて感性を豊かにしてください。



Q3.ペダルが濁ったり効いていなかったり上手く踏めない

これも色々なレベルの生徒によくみられる問題です。原因はだいたい2つです。

ペダルを奥まで踏み過ぎている

ペダルを上げる速度が遅すぎるし上げ過ぎている

ペダルは何度も言いますが『onとoffがあるスイッチではありません』。しかも自分の場合ペダルを奥まで踏むことはほとんどありません。ペダルの効果は踏んだ量に比例して増えていくのですがダンパーが完全に弦から離れたところからはいくら踏んでも変化しません。したがってそのポイントを見極められれば奥まで踏まずに奥まで踏むのと同じ効果を得られますし、足の移動距離を節約できるので上げる際にも短い距離で上げることが出来るのでペダルの濁りを防ぎやすくできます。同様に踏む際の待機ポジションはペダルの遊びで待機が基本になります、理由は離すときと同様に移動距離を節約できるからです。ペダリングは0コンマ何秒や僅かな足先の動きが大事になってくるシビアな技術ですのでこの僅かな距離が大きな意味を持ちます。自身の耳と足の感覚を研ぎ澄ませてペダリングを練習してください。



Q4.譜読みの時からペダルは踏んだ方が良いのか?

譜読みの時から使うことをオススメします。しかし勘違いしていけないのはあくまでペダルは響きの補助であってレガートは指で行わないといけないということです。複雑な和音の連続などでペダルでレガートを補助する場合はあってもペダルに頼り切っては絶対にいけません。また難しいパッセージを練習するときはまずペダルは外してやり音を拾ったらペダルを付けて練習しましょう。よくアマチュアの方にみかけるのですが曲が一通り弾けるようになってから音楽的仕上げの段階でペダルを用いる人がいますがたいていの場合指と足の連携が取れずに滅茶苦茶になっているケースがあります。何度も口を酸っぱくして言いますがペダルは指と同等かそれ以上に難しい技術です指と同様にゆっくりから練習をしなくては上手くなりません。



Q5.ペダルはどうやって練習すればいいの?

ペダルには残念ながら有用な練習曲はありません。そして弾く環境や使用楽器によって最も変わるのはペダリングなので正解がありません。自宅とコンサートホールではペダリングが全く違います。結論から言ってしまえば


自分のペダリングが音楽的で美しいのかどうか客観的に聴く耳があるかどうか


これにつきます。客観的に自分の音を聴けない人には一生ペダリングのテクニックは身に付きません。今は自身の練習を録音するのも簡単です。それらの機器を使って自分のペダリングを客観的に聴いてください

そして良い演奏をいっぱい聴いてください。好きなピアニストのコンサートを聴く時はピアニストの顔や手ではなくペダリングに注目してください。個人的にアマチュアとプロの最大の違いはペダリングにあると思います。 ペダリングは老若男女に共通の唯一のテクニックです。150cmの日本人女性と200cmのロシア人男性ピアニストでは手のサイズが違いすぎて指使い等の手に関するテクニックはあまり参考になりませんがペダリングは参考にできます。

あとは普段練習で使っているピアノのペダルが正常に作動しているかも非常に重要ですので調律は腕のいい人に定期的にしてしっかりメンテナンスしてもらいましょう。



ペダリングはピアノの極意です。しっかり会得してワンランク上の演奏を目指しましょう!


次回はペダリングの続き『ペダル(左足編)』です。それではお楽しみに!!

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