ピアノ講座第4回【アップライトピアノ】

最終更新: 2020年10月13日

第4回ピアノ講座は身近な家庭用ピアノであるアップライトピアノについて学んでいきましょう!


1.アップライトピアノの歴史


左からジラフ・ピアノ、キャビネット・ピアノ、ジラフピアノと筆者

アップライトピアノの歴史は意外と浅く18世紀後半にグランドピアノを単純にそのまま起こしただけのジラフピアノやキャビネットピアノが開発されました。これらのピアノが今日のアップライトの祖先になります。

上の写真で見てもらえば分かるように2メートルを超えるとてつもない高さになっています。これはグランドピアノ用のアクションを無理矢理縦方向に改造しているためアクションが弦を背面側から叩いており鍵盤とアクションが邪魔で弦を上方向にしか延ばせなかったことに起因しています。

登場以降アップライトピアノの歴史は小型化とアクション改良の歴史となります。

19世紀に入ると交差弦が考案され、更にドロップ式アクションの開発により弦を下方向に張れるようになり劇的な小型化を成し遂げます。下はキャビネットピアノの中身。

アップライト


1840年代のイギリス製コテージピアノ。交差弦ではあるが弦の張り方が現代のものと全く異なる、アクションを下に移設することで弦を下方向に張れるようになっている。


そしてアップライトピアノはピアノ界の三大発明家の一人アンリ・パップによりほぼ現在の仕様へと進化を遂げます。効率的な弦配置、小型アクション、ハンマーにフェルトを用いることにより小型ながら充実した音量を獲得しました。このパップのアップライトピアノが発表されるとこのスタイルがほぼアップライトのスタンダードとなりました。小型化に成功したアップライトピアノはそれまで家庭用として普及していたスクウェアピアノを次々と置き換えヨーロッパでは1850年代には完全にスクウェアピアノに取って変わられる存在となり今日に至ります。



パップ1839年製のアップライトピアノ。アクション構造と弦の交差方法を最適化し小型化に成功した。アクションも現代のものと似たような方式になった。




2.グランド・ピアノとアップライト・ピアノ


アップライト

ここまででアップライトピアノの歴史を見てきました、ではアップライトピアノはグランドピアノと何が違うのかを見ていきましょう。

まず最大の違いはアクション構造の違いがあげられるでしょう。前の項で話したようにアップライトピアノの歴史はアクション改良の歴史でもありました。そんな苦労の末生み出されたアクションですがやはり基本性能ではグランドピアノに一歩劣ります。


その原因は打鍵した直後にハンマーが自重で元の位置に戻るグランドピアノに対してアップライトピアノはバネの力を借りて元の位置に戻ります。この僅かな差が高速トリルや同音連打になった時にアップライトピアノではグランドピアノに対して先に物理的限界をむかえます。しかしアップライトの性能でもショパンやリストの練習曲を弾くことは十分に可能です。更に構造面から最弱音を出すのもアップライトのアクションは若干苦手です、グランドでは重力がハンマーへのブレーキに作用しゆっくり弦を叩き易いのに対し、アップライトではその重力がブレーキの方向にほぼかかりません。この差が最弱音を出すときに顕著に現れます。しかしながら本当に大事なのはアクション構造の違いを理解して弾き方を変えれるかどうかが問題なのです。

次に大きな違いとして音の飛び方があります。これは音源の響板が寝ているグランドピアノと立っているアップライトピアノですので当然です。基本的に音は響板の面に対して真っすぐ飛びます。これにより演奏者に対してグランドピアノでは上下にアップライトピアノでは前後に音が出ることになるのです。これにより基本的に壁に添って設置されることの多く響板の前面に前板があるアップライトピアノでは音量面に関して不利になりがちです。

アップライト

そして最後に左足ペダルの構造が全然違います。このシフトペダルと呼ばれる左のペダルはグランドではアクションごとハンマー位置をずらして弱音させるのに対してアップライトではハンマーを弦に接近させることで弱音をさせます。グランドピアノではハンマーが弦に触れる面が変化することで音色を変化させるのに対し打弦距離しか変わらないアップライトでは基本的には音色の変化は起こりません。グランドピアノ以上に弾き手のタッチに全てが委ねられています。


以上3つがアップライトピアノとグランドピアノの大きな違いになります。

これだけ見るとアップライトピアノはグランドピアノの劣化でしかないのかと思われますがそんなことはありません。ではそれらの理由を次の項で見ていきましょう。




3.アップライト・ピアノの特質


アップライト

ここまで読んだ方は「結局グランドピアノの方が良いじゃないか」と思うかもしれません。しかしアップライトピアノにはアップライトならではの利点が数多く存在します。

まずは価格面が優れています。いきなり現実的な話で申し訳ありませんが同一予算でグランドと比較した際アップライトピアノの方が明らかに音で優れた楽器を買うことが出来ます。国産や中国製の粗悪な大量生産品のせいで『アップライト=廉価版』という認識の方が多くいるのが現実ですが、一部のちゃんと誠実に作っているメーカーでは作る手間も材料も一緒なのにグランドに対して半分程度の値段に設定されているアップライトピアノは儲けが少ないのが本音なようです。

次に設置面積の少なさです。これがアップライトピアノが選ばれる最大の理由になっていると思われます。グランドは大型になるほど設置面積が大量に必要になっていきますがアップライトピアノの場合110㎝程度の小型モデルでも150㎝を超える大型のトップグレードでもほとんど設置面積が変わりません。そして意外に思うかもしれませんが130㎝前後の普通サイズのアップライトでも小型グランドに比べ遥かに大きな響板を備えているので狭い日本の住宅環境での音色の比較に関して言えばアップライトの方が圧倒的に優れていると言わざるを得ません。

アップライト

そしてこれについては完全に個人的な見解なのですがアップライトピアノの方が奏者の顔に響板が近いうえ音も顔正面に向かって出てくるため、非常に親密な楽器だと常々感じています。グランドピアノが聴衆に聴かせる為の楽器ならばアップライトは自分自身の為の楽器といった趣が優れたピアノからは特に感じます。

そして表現の可能性に関してはグランドピアノとアップライトピアノに大きな隔たりはありません。良質なアップライトは粗悪なグランドを遥かに超えるポテンシャルを秘めています。それを引き出せるかどうかは結局弾き手次第です。


何度も申し上げますが良質なアップライト・ピアノは決してグランド・ピアノの代替品などではなく立派な個性ある楽器なのです。闇雲にグランドピアノを考えるのではなく用途や予算、設置環境次第ではアップライトピアノが最適解になりうることが往々にしてあり得ます。自分がYouTube上で投稿している《ピアノを聴く動画》では優れたアップライトとグランド両方を別の楽器として紹介しています、実際「~のアップライトの音が一番好きでした」と仰る方もいらっしゃいます。ぜひ先入観に囚われず楽器自身の声を聴いてみてください、きっと素晴らしいピアノライフが待っていますよ! 次回のピアノ講座は【ピアノ界の三大発明家】を紹介しましょう!

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